『オッペンハイマー』

圧倒的な「静」と「動」。

アカデミー主演男優賞を受賞したキリアン・マーフィー演じる「原爆の父」J・ロバート・オッペンハイマーを描いた本作。年代でいうと1920~40年前後くらい。この時期の物理学は、その後の世界を左右するほどのポテンシャルを秘めていて、彼はその中心で指揮をとりつつ自身の矛盾した感情と相対し、苦悩するという話。

僕にとっては、早くも2024年No.1の映画となったかもしれない。

<卓越したノーランの遊び心>

ノーランの時間操作を用いた遊び心は、本作でも健在だ。物語は2部で構成されている。1部はロスアラモスでの原爆開発過程と、世界初の核実験「トリニティ」の場面。そして、2部は原子力の聴聞会でのオッペンハイマーと、本作の敵役として輝いていたロバート・ダウニー・Jr演じるルイス・ストローズの議会出席のシーン。この2つが中心を占める。

この2つのパートを描き分けに、ノーランマインドを感じられる。第一は、カラーでオッペンハイマーとしての視点。第二では、ストローズを主な視点としたモノクロの映像となっている。色分けにより、違いは一目瞭然だが、時間軸を前後して、複雑に物語が絡み合うのでひとときも気を抜いてはいけない。ノーランヘッズの1人としては、「メメント」「TENET」「ダンケルク」なんかの時間的要素が盛り込まれているようで、強く心が揺れた。

<えげつない音へのこだわり>

初回鑑賞した唯一の後悔は、IMAXに足を運ばなかったこと。作中の効果音とルドウィグ・ゴランソンの手がけた音楽は、本作の最大の目玉とも受け取っていい程、作品の重要なファクターとなっている。

核分裂や量子物理学のイメージを表現したシーンの、突発的な大音響が全身を襲い、物体がとてもエネルギーを持っていて、且つ正義にも邪悪にも支配できるということを音で教えてくれているようだ。

そして、最も音で特徴的に感じたのは静と動の対比。ルドウィグ・ゴランソンも「TENET」と比べると静かな表現をしていると感じた。「オッペンハイマーのテーマ」では、それを強く形容しているだろう。オッペンハイマー複雑に交差する感情や、スリリングで怪しげなイメージが本作におけるいわゆる”静“の部分。そして”動”の前に圧倒的な無音を置くことでより、静動の対比がはっきりと明暗化している。

そして、“動“は効果音の部分だ。オッペンハイマーの心理状態と繋がって、テンポが加速していく。冒頭でも書いた核分裂や量子物理学のイメージは”静“で与えられた極度の緊張感から、凄絶な爆裂音で一気に作品の激流に引き込まれる。強烈な低音も、動の表現として受け取る。緊張感が直接、心臓に伝わってくるはずだ。

「時間」と「空間」を自由に支配して魅せるクリストファー・ノーラン。今までの作品の要素も盛り込んだ本作はぜったいに映画館。可能なら、IMAXや音のこだわりが強いところで鑑賞してほしい。

作品の内容は、人それぞれで受け取り方が違うはず。ただ、国外にてここまでの規模で、このテーマを取り扱うということは、歴史的な背景を鑑みると、かなり貴重である。どういう形であれ日本人にとって忘れられないし、忘れてはいけない映画になるはずだ。

監督
クリストファー・ノーラン
音楽
ルドウィグ・ゴランソン
視覚効果
アンドリュー・ジャクソン
出演
キリアン・マーフィー
エミリー・ブラント
ロバート・ダウニー・Jr