アンビエント・サマーバケーション
夏に見たい映画って何?と聞かれると候補に必ず入れる本作。
一言で表すなら、ソフィア・コッポラが描くアンビエントな夏休みといったところか。
東京を舞台にした映画「ロスト・イン・トランスレーション」などで、日本でもファンの多いソフィア・コッポラ。そんな彼女の得意技は、起承転結の見えづらい“低体温系“な作品だろう。
最初の15分くらいは、きっと退屈に思う人も少なくないはず。いつも観ている映画のワンシーンよりも、尺が引き伸ばされた感覚(感覚というか多分そう)に陥ってムズムズとしてくる。ただそこは、綺麗なLAの景色に没頭し、作品を止めるようなことはしないでほしい。
本作の主人公、ムービスターで少しだらしない父親役を演じたスティーブン・ドーフの演技がとても好きだ。普段は離れて暮らす娘役のエル・ファニングとのぎこちない距離感が、観ているこちらの心をギュッと掴んでくる。「命をかけて守るヒーローのような父」、「全く愛が見えないように見えて暴力的な父」そんな父親像はこれまでの映画でたくさん描かれているが、娘に対する父のぎこちなさを、巧みに表現できている作品は多くないだろう。ただ、このスタイルの父親率が現実世界では多くのシェアを占めるのではないか。不器用で何もアクションしていないように見えるけど、ちゃんと優しいんだ。そういうもん、そういうもん。
そんな親子関係を表現するには、ソフィア・コッポラの“低体温“攻めで、スローに進む描き方・脚本以外にはない気がしてくる。本記事では低体温な雰囲気で親子関係を描く素敵さにフォーカスして書いた。1本まるっと観たときに、最初の退屈感から抜け出してからだが緩んだらきっとこの映画の正解な気がする。それくらい総合的にこの映画はステキだということを伝えたい。(これくらい詰めとかないと退屈に負けて、没頭できない気がする)
きっと本作を上手に観終わるころには、身体の力が抜けて自分にセンチメンタルが訪れる。ぜひ、夏のお昼から夕方あたりに、ベッドで寝転がりながら、1人で見ることをオススメしたい。
余談だが、朝食のシーンもオススメ。理想的な朝食すぎて、明日の朝のために材料を揃えてこようとスーパーへと足が運ぶはず。
監督
ソフィア・コッポラ
出演
スティーブン・ドーフ
エル・ファニング