初めて水風呂を忘れた日

そういう日は、ふと訪れるものなんだ。
日曜日の夕方、明日からの仕事に備えて友人カップルとサウナに行こうとなり渋谷にある改良湯へ。中目黒の光明泉、池尻大橋の文化浴泉と似たようなシティ銭湯&サウナらしい。前文の二つによく行く事もあるのと、人が多くて混みそうだと足を運ぶのに億劫になっていた。

こんな機会でもないと、行かないし、「きてやったぜ?」くらいの少々舐めた態度でロッカーキーを貰い、案の定並ぶ。その日、このサウナに感謝してもしきれないことに、並んでいる私は知る由もないので若干の仏頂面だ。

30分ほど、経過しようやく中に入れることに。(中はそんなに広くないので店外で待ち、そこから順番が回ってくると中で待つシステム)。友人から、改良湯は熱波師がいて音楽をかけながら仰いでくれるんだと聞いた。「音楽って何が流れるの?」「AKB、確か。」いやあ、AKBで整えっていうのか、さすがは渋谷のミーハー感が漂ってるなと面白半分で聞き流しているとようやく湯に浸かれることに。

新しい銭湯に来たらどんな設備になっているか、場所の配置を見るのがゆるく決めたマイルールだ。このタイミングでいいサウナセンサーがばちばちに反応している。浴室は、照明を落として暗めで、耳を傾けると心地のいいアンビエントミュージックが流れている。AKBの印象に引っ張られてしまっていたが、こっち系(距離的にも近いところだと文化浴泉や恵比寿のドシー)だったとは思わなんだ。いつものように少し湯に浸かり、いよいよサウナ室へ。こちらも暗く、銭湯全体からの佇まいからは想像できないキャパ(15人くらいはいけそう)。アンビエントな水風呂でキマって、外気浴だぜと想像してテンションが上がっていく。ちなみに、外気浴は男性のみらしい。


この時点で、今回の感動はとてつもないし改良湯は素晴らしかったと意気揚々としていたその時だった。浴室内に、サウナ好きなら必聴曲であろうTempalayの「あびばのんのん」が鳴り響く。なんだなんだと一瞬呆気に取られたが、常連客の表情をみてロウリュ開始の合図だと察した。このサウナ、侮れないぜ。このままやられっぱなしは悔しいので、おたくらの熱波受けてみようじゃないの。

「本日の熱波を担当します〇〇です!」につづいて、拍手がサウナ室に鳴り響く。熱波師に送るこの拍手が世界で1番、想い的にも温度的にも熱がこもっている気がする。担当は若くて爽やかな、幡ヶ谷なんかを歩いてそうなシティボーイ。

そして、サウナストーンにアロマ水(香りは白樺)を垂らし、タオルをぶん回して部屋の温度を一気に上昇させていく。そして、桶に忍ばせたスピーカーをつけて「いきまーす。」と軽いスタートを切るのと同時に彼の流した音楽にやられた。テーム・インパラの「Feels Like We Only Go Backwards」だ。ミーハーでとりあえず 曲流しとけのスタンスではないのか!テームインパラのパンチのあるビートとやさしい声色に、白樺の熱波が身体を包み込む。サウナで音酔いで身体を揺らしたのは、これが初である。元来、サイケデリックアーティストとしての印象も強いテーム・インパラだがこの楽曲に関しては、オーストラリアのスローライフを彷彿とさせる。視界には、ホワイトヘブンビーチが見えてこようかというところ。

あっという間に熱波タイムが終わる。最高の気分で、DJシティボーイa.k.a熱波師に感謝しつつ、この時点で10分間サウナに入り熱波も受けていたため限界で出ようかとしたその時だった。熱波師の彼が「2セット目参ります。限界の方はご退場をお願いします。」


「2セット目」が「2曲目」に聞こえたのもこれが初だ。1曲目がテームインパラの彼の2曲目・・・。気になる、気になりすぎる。もうここで終わってもいいと私は着座し、彼の2曲目を聞く決心をした。また、サウナストーンにアロマ水を垂らし、部屋の温度もえげつない。そして、2曲目。JPEGMAFIA「Garbage Pale Kids」だ。これはやられた、完全KOだ。ここでリズムを上げに上げてきた。ヒップホップをベースにパンクロックやエレクトロも感じさせるJPEGMAFIAだが、この楽曲は特にそのさまざまなジャンルを取り込んでくれている気がする。彼なりの祭囃子が室内のテンションを最高潮に引き上げてくれる。先ほどよりも首を大きく振る。BPMがいつもより早く感じて、死を感じたその時、熱波師の彼が持ち出したのは、長く世界中の職人たちから愛されているマキタ製のブロワーではないか。工事現場などでどんな埃やちりも吹き飛ばしてくれる優れものだが、サウナ室でそれを生身の体に熱波と当ててくれと手を挙げるのは、立派な希死念慮である。

しかし、最高の熱波と音楽を与えてくれた彼に敬意を表したいため、私は進んで手を挙げてブロワーによる凝縮熱波をいただいた。

最高の熱波タイムが終わりふらふらになりながら、水風呂のため桶に溜めた水で汗を洗い流す。気がつくと、屋外の椅子に座っていた。私は、気持ちのいい秋の風だけで完全に整えてしまうことを本能的に察して、その日初めて水風呂を忘れたのだった。